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最高裁判所第一小法廷 昭和53年(行ツ)126号 判決

東京都文京区本郷四丁目三七番一三号

上告人

漆原不動産株式会社

右代表者代表取締役

漆原徳蔵

東京都文京区本郷四丁目一五番一一号

被上告人

本郷税務署長 名取儀朗

右指定代理人

岩田栄一

右当事者間の東京高等裁判所昭和五二年(行コ)第五〇号法人税更正処分取消等請求事件について、同裁判所が昭和五三年七月二一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 本山亨 裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 戸田弘 裁判官 中村治朗)

(昭和五三年(行ツ)第一二六号 上告人 漆原不動産株式会社)

上告人の上告理由

東京高等裁判所昭和五二年(行コ)第五〇号法人税更正処分取消等請求控訴事件につきまして昭和五三年七月二一日第五民事部の判決言渡しにより控訴棄却となりましたのでこの判決は上告人の主張事実に対して誤った判断をしていることについて次のとおり原審の誤りに対する反論と、その主張事実を申述べます。

上告人は昭和四四年九月一日から昭和四五年八月三一日までの事業年度分について被上告人に対し所得金額を金二〇、二〇六、六二七円として申告したがこれに対し被上告人は昭和四六年一二月一五日付を以ってこの所得金額を金三二、三八八、五〇一円とし、これに対する本税額を金三、七五一、〇〇〇円増額した更正処分ならびに過少申告加算税として金一八七、五〇〇円の賦課決定処分をなし、昭和四六年一二月二六日その通知を受けた。この更正処分に付記されている理由によると右増所得額金一二、一八一、八七四円はすべてこれを上告人の当該事業年度分の損金に算入することを否認するというものであった。

上告人の前記法人税は青色申告によるものであったので昭和四七年二月一八日東京国税不服審判所に対し右更正処分中金一二、〇〇〇、〇〇〇円の損金算入を否認した分の更正処分の取消しを求めて審査請求をなしたるところ昭和四八年九月一二日付をもって右審査請求は棄却され、同月一四日その通知をうけたものであります。

ついては上告人の右審査請求は次のとおりの経過事実による理由から当然原処分は取消されるべきものであった。

ところが審査請求及び第一審、第二審における上告人の経過事実による事業用資産(固定資産)である旨を主張してきたがその事実に反し、悉くそれが棄却されてしまったのである。

よって茲に本件の一部始終を申述べ貴所の適正な御裁決を願いたく存じます。

すなわち上告人は昭和三九年訴外丸紅飯田株式会社から同社のガソリンスタンド用地の斡旋の依頼を受け、その候補地を物色したところ、その結果、株式会社内田和幸商店所有の土地(農地)所在、埼玉県北足立郡新座町大字大和田字中野、九九六坪を取得できる目度がついたので同土地を丸紅に紹介した。ところが丸紅の返事は同土地はほしいのだが資金の都合上全部でなく国道に面した方六六〇坪だけを買収したいとの希望の申入れがあったので上告人は内田和幸商店に対し国道側六六〇坪分だけを譲ってもらいたい旨申し入れたが国道に面している部分だけを譲ったのでは残地の利用度と価値がなくなるから一括でなければ困るとの返事であった。

それで上告人としては丸紅が承諾している六六〇坪の取引を白紙にすることはできないので、考えた結果出来得るものなら今後丸紅に対し当該土地全部の取得方を交渉することにして、どうしても丸紅がその全土地の取得が無理な場合、残土地部分になるところは、丸紅の隣接地ということになるので同地を丸紅の関連施設建築用地として利用すればよいとの方針を立て昭和三九年九月一四日右計画に従い、その国道に面する六六〇坪の部分と残りの本件土地との二筆に分筆する約定のもとに内田和幸商店との間において売買契約を締結しました。

その後上告人は丸紅と右土地の売買の具体的交渉に入ったが上告人の右希望は受け入れられず最終的に丸紅との間で昭和四〇年一月三〇日本件土地を除く六六〇坪の売買契約を締結しました。

即ち上告人は右契約に至るまでの経過事実のとおり本件土地は一般的販売目的のため取得したものでないことは明らかであり、なお本件土地を取得して間もない右の丸紅との契約した昭和四〇年一月三〇日の時点においては本件土地の利用目的は事業用資産として確定した状況にあったことは事実である。

更にその事実を裏づける実証については次のとおりである。

一、訴外平和光学株式会社(代表取締役漆原徳光は上告人会社代表取締役の長男である)は文京区向丘二丁目四番二号に所在する追分ビルの二階部分六〇坪を賃貸し(賃貸人はその所有者である上告人会社代表取締役個人)同所において双眼鏡ケース(主として皮革ケース)の製造販売の事業を営んでいたが右追分ビルは商店街及び住宅の密集地にあり訴外平和光学の作業工場から発する騒音、臭気は隣接地の苦情をうけ数回となく苦情をもちこまれ、そのため、ことに夜間作業などは、さし控えなければならないので作業と販売に支障を来す状況にあった。

また訴外平和光学は右追分ビルに移転する前(昭和四二年一月以前)は文京区本郷二丁目四〇番一〇号所在の建物(鉄筋コンクリート造り二階建、所有者、上告人会社代表取締役個人)を賃借し、同所において右の双眼鏡ケースの製造販売を営んでいたが、やはり同建物は文京区本郷三丁目交差点角地春日通りに面し訴外平和光学の材料、製品の積みおろしによる運搬車の出入が激しいので隣接の商店から度々苦情を申入れられ又町会からも注意をうけていたので、この建物の所有者である上告人会社の代表取締役個人漆原から訴外平和光学に対しとりあえず前記追分ビルに移転するよう注意をうけたことにより、やむをえず昭和四二年一月訴外平和光学は前述の追分ビルに移転したのである。

又訴外平和光学が製品を納入している先のひとつである日本輸出双眼鏡ケース工業組合は埼玉県川越市に共同加工センターを建設すべく同地の土地を買収する準備を進めており、その関係上と右記苦情の申し入れ等もあり訴外平和光学としても組合との製品納入と連絡に便利な地に工場、事務所を移設したい希望をもっていた。

また訴外平和光学は昭和三九年から昭和四〇年にかけて、その実績(決算書)に示すとおり製品売上高は著しく伸長し、当時その後の売上予想においても、その需要の急激な伸びが予定し伸び率が順調に推移することが予想されていたのである。(法人税確定申告書によってもそれが立証されているのである)

ところで訴外平和光学は前述のとおり工場、事務所を移設する状況にせまられて適当な移転先をさがしていたが希望するような立地条件及び価格にあった物件が見当らなかったしそれというのも資金の都合上土地の買取りまでの余裕もできないままであった。

そこで上告人会社は訴外平和光学に対し本件土地を賃貸して使用させることにしたのである。

本件土地は前述のとおり川越市内に日本輸出双眼鏡ケース工業組合が建設予定中の共同加工センターとの至近距離になるので立地条件としても、このうえもない適した場所であった。

二、前述のとおり訴外内田和幸商店から買受けた土地のうち本件土地を除く、その余の土地が訴外丸紅飯田に売却されたことにより本件土地が棚卸資産でなく事業用資産として確定したので上告人会社は本件土地上に丸紅の関連施設を建設すべく農地法第五条による農地転用許可の手続を上告人会社名義で埼玉県知事宛に申請した。

その申請によって許可がおりたとき訴外平和光学に本件土地を賃貸し、本件土地上に必要とする工場を建設するためであった。ところが上告人会社名義で農地法第五条による許可を得ることが新座町農業委員会の方針により認められない状況にあったので、右申請を取下げた直後訴外平和光学名義で再び農地法第五条の許可申請手続をなしたのである。

なぜ右のように訴外平和光学名義で許可申請を行ったかについては、そこに理由がある。

すなわち上告人会社は本件土地を訴外平和光学に賃貸することにしたのであるから、そこで上告人会社は本件土地の所有名義を登記簿上訴外平和光学に移転し、訴外平和光学が所有者たるべき地位にあるものとして右許可申請を行ったのであるが本件土地の所有に係る実体関係には何等の変更もない名目的なものであることを訴外平和光学も了解の上であり、また訴外平和光学との本件土地に係る賃貸借契約の予約にもよる如くである、のみならず被上告人も、それを了承しているのである。

上告人会社や訴外平和光学としては、この許可申請に関して現実に土地を使用し、工場等を建設する当事者が訴外平和光学である以上右のような方法を講じることが農地法第五条の精神に反するとは思れなかった。

三、上告人会社は本件土地を訴外平和光学へ賃貸の用に供するため土盛り及び造成工事を行ない、右に述べた許可申請と同時に本件土地の管理を訴外平和光学に委任したのである。

また上告人会社は本件土地に対して、売り地の標識を建てるとか売り地として新聞及びチラシ広告をするとか業者間に販売連絡をするようなことはただの一度もしなかった。

本件土地が道路計画により買収されたのが昭和四四年十一月二四日であるところを考えればこの長期間にわたり本件土地について上告人会社が前述のとおり一般的に全く売却する意思がなかったことにしてもこれを棚卸資産とはみなしていなかったことの何よりの証拠である。

なお上告人会社は右記に述べた訴外平和光学の工場建設計画による本件土地の農地転用の許可申請によって訴外平和光学との間に本件土地の賃貸借予約契約(覚書)を結んだことによっても事業用資産であることは明らかである。

又訴外平和光学は訴外丸紅飯田が買受けた土地を(提出済み図面資料のとおり)通行使用する権利を訴外丸紅飯田から与えられていた。ということは、その丸紅飯田の土地を通行しなければ川越街道から出入りすることが著しく困難であり、また事実上不可能な状態にあった、また右通行権は登記が経由されていなければ第三取得者に対抗できないものであったので訴外丸紅飯田と訴外平和光学はお互いに自己の土地登記名義を第三者に移転しないことの暗黙の了解がついていたものである。

その了解があればこそ訴外丸紅飯田は訴外平和光学に通行権を認め、訴外平和光学は訴外丸紅飯田に対し、この登記の経由を求めなかったのである。

これからしても本件土地を一般的に売却することは予定されていなかったことが明らかである。

四、訴外平和光学が前述のとおり本件土地について農地転用の許可申請後、県は厳重に実情を調査した上訴外平和光学が本件土地上に工場、事務所等を建設する具体的計画を有していることを認めたので、その申請どうり許可したのである。

それについて本件土地を前述のとおり上告人会社名義で農地法第五条に基く農地転用の許可申請をし、それが取り下げられたものであることが県の農地委員会にも記録し残されているので県は本件土地について再び農地転用の許可申請があれば当然厳重な又慎重な調査を行なったことも認められ、訴外平和光学名義の許可申請の記載内容に真実性があればこそ右申請どおり許可にいたったものである。

五、訴外平和光学は農地転用の許可がおりて間もなく昭和四一年春頃前記許可申請書記載の工場等の建設に着手すべく都市計画及び道路計画を調査していたところ、その頃埼玉県庁において本件土地が国道二五四号線(川越街道)道路改良工事計画上全部インターチェンジ区域に入ってしまうとの情報に接したことにより上告人会社及び訴外平和光学は、その情報の確認を得る一方、ついては恒久的施設の建設にさしつかえがないという確実性がえられるまで一時建設計画を延期するにいたったものである。

一方訴外丸紅飯田も右の情報により折角のガソリンスタンド建設のため農地転用の許可を得ながらやはり同様の理由でその建設計画を中断することになったのである。

もし昭和四一年頃右のような道路計画の情報を探知していなかった場合は、その当時訴外丸紅飯田はガソリンスタンドを本件土地の隣接土地に又訴外平和光学は本件土地に工場等建設に着手していたはづである。

それからこれらの建設をみあわせている間に右情報が真実であることが次第に判然となり、又付近の土地の買収交渉も具体化するにより本件土地の収用も避けられないこととなり、ついに訴外平和光学も上告人会社も右建設計画を断念せざるを得なくなったものである。

上告人会社は訴外平和光学との間において昭和四〇年八月一〇日付をもって甲一〇号証の覚書記載の契約を結び、その契約により上告人会社は訴外平和光学に対し同契約第七項による賃貸借契約の調印されないことが確定するまでの期間本件土地の賃貸借予約をするにいたった。

すなわち右賃貸借契約の調印は訴外平和光学が本件土地上に工場等を建設するための建築確認申請手続をする日であると両者間で考えたうえ了解しあっていたのであるが右予約の有効期間中に本件土地が買収されることになった次第である。

この買収されることになった本件土地の売却するに際しても埼玉県川越土木課長等からの言質で土地収用法による控除として金一、二〇〇万円が控除されることの説明を受け、それを信じこれを前提条件として交渉し県の指示どうりの価額でいわれるがままに承諾し売却したのである。

六、本件土地が上告人会社において帳簿上棚卸資産として記帳されていた理由について申述べると当初の頃(前述の訴外丸紅飯田に六六〇坪売却するまで)は未だ訴外丸紅飯田に売却すべき土地の範囲が未確定であったので上告人会社は購入した土地全部を棚卸資産とみなし記帳し後日本件土地部分の範囲が確定してから、これを固定資産に振り替える予定であったが原審において経理担当の岡田太郎が証言したとおり単に事務上の理由でこの振替事務を失念してしまったものである。

なお記帳違いが発見されたとき、これを真実の状態にもどして適正な認定を行うことが税法上の実質課税の原則からも必要なことであるところから厳しく要請されるものというべきであり、それも被上告人が棚卸資産として記帳されていたことだけに固執し、真実の課税上の本質を無視しただ信用できないの漠然とした理由のもとに右の経過事実を否認した更正処分はどうしても納得できないのである。

又第一審第二審における判決においても右記の主張は採用できないとして被上告人の理由を採用していることは実質課税の本分を無視しているとしか判断できないのであります。

以上のとおり本件における一部始終の事実を申し述べてきたことにより本件の経過事実に偽りのないことが御判断願えるものと信じ茲に貴所の適正な御裁決を賜りますよう上告致します。

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